デューデリジェンスブログ「鈴木正人弁護士 グローバルコンプライアンスへの備え」

2017/07/07
グローバルコンプライアンスへの備え ⑥ 企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(4))

1. はじめに

前回ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)の内容を踏まえて外国公務員贈賄防止体制として望ましい要素のうち、社内における教育活動の実施、監査、経営者等による見直しの項目の留意点等について概説した。本ブログでは、子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方について説明する。

2. 子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方

(1) はじめに

日本企業では連結・グループ経営が重要であり、海外子会社・グループ会社を抱える企業集団も多い。また、近時は、海外子会社・グループ会社における不祥事が生じるケースが増加している。親会社は、企業グループ内の直接・間接に支配権を有する子会社に対して、外国公務員贈賄規制に関して必要な防止体制の構築及び運用を推進し、その状況について定期又は不定期に確認することが重要である。その際に、考慮すべき有益な要素について説明する(本指針第2章3参照)。

(2) リスクベース・アプローチの採用

まず、外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を推進するに当たり、その子会社の範囲やその内容についてもリスクベース・アプローチを採用することが有用である。

日本企業としては、子会社・グループ会社の管理に当たり一律のグループポリシーを策定し、一律に適用することが理想ではあるものの、外国公務員贈賄規制違反のリスクは、進出国、事業分野等により異なる。また、連結経営において、それぞれの子会社・グループ会社の自社グループにおける重要性も異なる。そこで、防止体制の構築・運用を推進する子会社の範囲やその内容についても、リスクベース・アプローチが適用されることが肝要である。

例えば、①現在及び将来の企業価値のみならず、贈賄リスクの多寡や事業の性格を踏まえて重要と言える子会社や②プロジェクトの進行過程の要所で親会社が承認を行うなど実質的関与を行う場合における当該プロジェクトを担当する子会社については、防止体制が構築されることが望ましいといえよう。

このように、子会社を特定し、リスクベース・アプローチに応じて外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を推進することが考えられる。

(3) 日本企業の子会社・グループ会社への関与方法

まず、日本企業は、連結経営の観点から子会社・グループ会社の管理に当たりグループポリシー等を策定し、これを子会社・グループ会社に遵守させることは有用であるが、一方で、子会社・グループ会社においては株主の意向を踏まえつつも各社の経営陣が業務執行を行うこととなる。そこで、子会社の防止体制の構築・運用に関して、子会社が自律的に防止体制を構築・運用することが原則となる。

もっとも、現実に、子会社の対応能力・経験が乏しい場合もある。このような場合には、親会社である日本企業は、不足するリソースを補完し、さらに、必要な場合には親会社が主導して子会社の体制を構築・運用することが重要である。

すなわち、日本企業の多くの海外子会社は、人員の限界もあり、外国公務員贈賄の防止に関する対応能力や経験が不足していると考えられる。このため、子会社において、自律的に防止体制を構築し、運用することが困難な場合には、親会社や地域統括会社のコンプライアンス部門の支援が必要となることが多いと考えられる。親会社や地域統括会社のコンプライアンス部門の支援は、外国公務員贈賄の防止に限定されるものではないが、外国公務員贈賄規制の重要性に鑑み、グローバルコンプライアンスの分野の中でも支援の優先度が特に高いと考えられる。

日本企業がリソース補足や主導的な子会社の外国公務員贈賄防止体制の構築・運用を行うに当たっては、当該子会社の外国公務員贈賄規制の対応状況の確認を行い、その内容を把握することが有用である。当該対応状況の確認に当たっては、規程類の整備状況にとどまらず、規程類を含めた防止体制が実際に現場において機能しているか否かを確認することが重要である。必要に応じて、親会社が子会社の現場従業員との意見交換、規程類の運用実績の確認(サンプルチェック等)といった手段を活用することも考えられる。これらの活用においては、子会社に対する点検・監査の一般的な手法が妥当すると考えられる。なお、子会社において、親会社の規程類をそのまま「コピー」する事例もあるが、子会社においては、親会社の規程類をベースにしつつも、決裁や承認のプロセス等については、子会社の組織・体制、人員、業種に応じて、リスクに対応する機能的な規程類を整備することが望ましいと考えられる。

また、企業グループ内の合弁会社など、自社が直接・間接の支配権を有さない場合には、可能な範囲で、必要な防止体制の整備・運用を図る対応が考えられる。

(4) 海外子会社・グループ会社との協働・情報交換

日本企業は、連結経営の観点から企業集団で、従業員を対象とする贈賄防止に関する研修などの教育活動やコンプライアンス・プログラムを共同で実施することや、監査、内部通報体制等を共同で運用することも有意義である。このような共同実施、共同運用は、内容面で一定水準を確保することが期待できるとともに、有事における早期の対応を可能とする観点から有効である。

なお、日本企業が海外子会社・グループ会社と協働して外国公務員贈賄規制を行うに当たっては、自国から海外entityへの情報伝達が伴うことが想定される。特に外国公務員贈賄規制においては、従業員や許認可を付与する外国政府関係者、代理人、取引先等のパーソナルデータの伝達が行われることが想定される。この点、近時は、世界各国でパーソナルデータの国外移転規制が導入されており、例えば、EUの個人データ保護指令(Data Protection Directive 95)は、第三国への個人データの移転制限をしている。企業集団全体で贈収賄対応に係る個人情報を処理する場合には、そのような関係法令にも留意する必要がある。EUとの関係では、個人データ保護指令に代わり、2018年5月25日にEU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が適用される予定であり、規制が強化される。また、日本国内では2017年5月30日に施行された改正個人情報保護法24条により日本企業が海外子会社・グループ会社を含む外国にある第三者に対して個人データを移転する際には原則として本人の同意が必要となった。日本企業が本人の同意なしに個人データを海外子会社・グループ会社に対して提供するためには、契約やグループポリシー等で個人情報保護法の趣旨に沿った措置を講じることなどが要求されており、これらは現状での現実的な対応方法となっている。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「有事における対応の在り方」などの留意点等について説明する。

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2017/06/05
グローバルコンプライアンスへの備え⑤企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(3))

1. はじめに

前回ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)の内容を踏まえて外国公務員贈賄防止体制として望ましい要素のうち、基本方針の策定・公表、社内規程の策定、組織体制の整備について概説した。本ブログでは、外国公務員贈賄防止体制として望ましい残りの要素である社内における教育活動の実施、監査、経営者等による見直しの項目の留意点等について説明する。

2. 企業が目標とすべき外国公務員贈賄防止体制の在り方

 (1) 社内における教育活動の実施

本指針は、外国公務員贈賄防止体制として、社内における教育活動の実施の要素を挙げている。企業が従業員の贈賄防止に向けた倫理意識の向上を促し、内部統制の運用の実効性を高めるためは、社内において適切な教育活動を実施することが重要である。具体的には以下のような取組みが参考となると考える。

                              チャート

(2)  監査

グローバルコンプライアンスへの対応全般に共通するが、監査の実施と監査結果の検証、見直しは非常に重要なアクションである。

企業が行う一連の活動に関して、PDCAサイクルというフレームワークがある。

①P(Plan、計画)の段階では、目標を設定し、それを具体的な行動計画に落とし込み、

②D(Do、行動)の段階では、行動計画について具体的に実行を行い、

③C(Check、点検)の段階では、途中で成果を測定・検証し、評価を行い、

④A(Action、改善)の段階では、Cの結果を踏まえて必要に応じて修正を加えるものである。

PDCAサイクルでは、一連のサイクルが終了した後も、再計画へのプロセスへ入り、次期も新たなPDCAサイクルを進めることになる。グローバルコンプライアンス対応における内部監査は、PDCAサイクルの点検(check)に対応する。

本指針は、定期的又は不定期の監査により、社内規程の遵守状況を含め防止体制が実際に機能しているか否かを確認するとともに、必要に応じて、監査結果等が後記(3)の見直しに反映させることを掲げている。

監査担当者(コンプライアンス責任者や法務・経理担当者、監査役などの監査に携わる役職員等)は、防止体制が有効に機能しているか否かについて定期的に監査し、実施状況を評価することや監査結果等については、経営者、コンプライアンス責任者、法務・経理・監査部門の責任者、関連する従業員に広く情報が共有されるよう努めることが肝要である。

(3)  経営者等による見直し

内部監査等を踏まえて、経営陣が改善を行うことも外国公務員贈賄防止体制の要素として非常に重要である。グローバルコンプライアンス対応についてPDCAサイクルに即して整理すると、経営者等による見直しは改善(act)に対応する。

本指針は、継続的かつ有効な対策や運用を可能とするよう、定期的監査を踏まえ、必要に応じて、経営者やコンプライアンス責任者等の関与を得て、防止体制の有効性を評価し、見直しを行うことも企業が目標とすべきとする。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「子会社の防止体制に対する親会社の支援の在り方」などの留意点等について説明する。

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2017/05/10
グローバルコンプライアンスへの備え④企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(2))

1. はじめに

前回ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)を踏まえて企業における外国公務員贈賄防止体制について概説したが、本ブログでは、本指針を踏まえた企業が目標とすべき外国公務員贈賄防止体制の在り方について説明する。

2. 企業が目標とすべき外国公務員贈賄防止体制の在り方

本指針は、国際商取引を行う各企業が目標とすべき防止体制の在り方を例示している。当該の例示は法令上の義務を示すものではないとされており、また、具体的な在り方は企業の規模・事業形態等によって具体的内容は大きく異なりうるものであるが、各企業の体制構築に当たり参考となるため以下紹介する。

(1) 防止体制の基本的内容

本指針は、外国公務員贈賄防止体制として、一般的に以下の6項目が防止体制として望ましい要素であると述べている。その概要は下図のとおりである。

<外国公務員贈賄防止体制として望ましい要素>

    望ましい要素

以下、個別の項目の留意点を説明する。

(2)  基本方針の策定・公表の留意点

まず、①基本方針の策定・公表については、外国公務員贈賄防止を支える企業倫理とともに社内で共有化され、徹底が図られることが重要である。周知方法については基本方針の内容を重ねて発出して浸透を図ることや国内外の外国人従業員への周知のみならず、外国政府や、外国投資家、商取引相手の理解を求める等の場面でも活用できるよう、必要に応じ翻訳しておくとの工夫も有用である。

(3)  社内規程の策定

次に、②社内規程の策定については、特に、リスクベース・アプローチに基づき、高リスクの行為については、承認要件、決裁手続、記録方法等に関するルールを制定することが望ましい。高リスクの行為としては、外国公務員等との会食や視察のための旅費負担といった外国公務員等に対する利益の供与と解される可能性がある行為や前回ブログ2(2)記載の図表「贈賄リスクが高いもの」のうちの行為類型に列挙された行為が考えられる。ルール化の内容であるが、行為類型毎に承認要件、承認手続、記録、事後検証手続を内容とする社内規程を策定することや契約前の確認手続・契約期間中等の手続を定めるとの対応が考えられる。また、人事上の制裁に関しては、就業規則や決裁規程、稟議規程など関連社内規程が存在する場合には、外国公務員等への支払行為や外国公務員等との取引についても適用されることが明らかとなるよう、贈賄行為を対象として明記することが考えられる。

(4)  組織体制の整備

さらに、③組織体制の整備については、社内の役割分担、関係者の権限及び責任が明確となるよう、企業規模等に応じた内部統制に関する組織体制を整備することが重要である。その際には、コンプライアンス担当役員又は社内でコンプライアンス担当を統括するコンプライアンス統括責任者の指名、社内相談窓口及び通報窓口の設置等などの事項が重要である。さらに、防止体制の運用においては、現場における具体的な贈賄の兆候を早期の対応に結びつけることができるよう、現場担当者が上司やコンプライアンス責任者に気軽に相談できるような、組織内の「風通し」を確保することや子会社を含め、営業部門・営業担当者に対しては、実現困難な受注実績を求めるなど贈賄行為を行う動機を形成させないよう配慮することにも留意すべきである。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「企業が目標とすべき防止体制の在り方」のうち④社内における教育活動の実施、⑤監査、⑥経営者等による見直しの項目の留意点等について説明する。

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2017/04/04
グローバルコンプライアンスへの備え③ 企業における外国公務員贈賄防止体制(外国公務員贈賄防止指針(1))

1. はじめに                

前回ブログでは、不正競争防止法での外国公務員等贈賄規制を概説したが、本ブログでは、経済産業省が策定している外国公務員贈賄防止指針(以下「本指針」という。)を踏まえて企業における外国公務員贈賄防止体制について概説する。

2. 企業における外国公務員贈賄防止体制

(1) 体制の構築・運用の必要性

前々回、前回のブログでは日本で活動する企業におけるグローバルコンプライアンスリスクとして外国公務員贈賄規制対応の重要性が増している点を説明した。この点、株式会社の取締役は同社に対して善管注意義務を負うが(会社法330条、民法644条)、善管注意義務の内容として取締役には企業において通常想定しうる不正行為についてそれを回避するための内部統制システムの構築が求められるとの趣旨の判例がある(日本システム技術事件最判平成21年7月9日)。そこで、外国公務員贈収賄のリスクが通常想定される事業を実施する企業は、内外の関係法令を遵守し、企業価値を守るために必要な防止体制を構築する必要があるものと考えられる(本指針6頁参照)。

本指針は、このような内部統制の在り方に関する考え方を踏まえて、外国公務員贈賄防止の視点に特化して、防止体制の構築・運用にあたり留意すべき内容を例示している。本指針は、国際商取引に関連する企業における外国公務員等に対する贈賄防止のための自主的・予防的アプローチを支援することを目的として策定されたものであるが、日本で活動する企業において参考になるため、以下、例示内容等を紹介する。

(2)  防止体制の構築及び運用にあたっての視点

本指針は、防止体制の構築及び運用にあたっての視点として、①賄賂が会社のためになるとの誤った認識を断ち切る等の経営トップの姿勢・メッセージの重要性、②リスクベース・アプローチ、③贈賄リスクを踏まえた子会社における対応の必要性を挙げる(同指針7頁参照)。

まず、①経営トップの姿勢・メッセージの重要性であるが、法令等遵守全般について妥当するものであると考えられる。法令等遵守について担当者任せにするのではなく、経営トップが法令遵守を貫くことが中長期的な企業の利益にもつながる点を明確にし、従業員等に発信するとの対応は、法令等遵守を社内に周知・浸透させるに当たり肝要である。

次に、②リスクベース・アプローチに関して、本指針は、贈賄リスクが高い事業部門・拠点や業務行為を対象に、高リスク行為に対する承認ルールの制定・実施、従業員に対する教育活動や内部監査といった対策を重点的に実施してリスク低減を図る一方で、リスクが低い事業部門等については、より簡素化された措置を許容するアプローチの採用を提唱する。当該アプローチは、企業のコンプライアンス対応(例えば、アンチ・マネー・ローンダリング対応など)に当たり一般的に妥当する考え方である。

本指針では、贈賄リスクの高低については、進出国の贈賄リスク、事業分野の贈賄リスク及び賄賂提供に利用されやすい行為類型に着目し、これらを総合勘案して判断することが基本となるとの考え方が示されている(同指針8頁参照)。贈賄リスクが高いものの内容は、以下の図のとおりである。

<贈賄リスクが高いもの>

進出国

アジア、中東、アフリカ、南米等

事業分野

事業の実施に現地政府の多数の許認可を必要とする状況が認められる場合

外国政府や国有企業との取引が多い場合など外国公務員等と密接な関係を生じやすい性格を持つ場合

行為類型

現地政府からの許認可の取得・受注や国有企業との取引などに関して助言や交渉を行う事業者(エージェント、コンサルタント)の起用・更新

高リスクと考えられる国・事業分野におけるジョイントベンチャー組成の際の相手先の選定や、高リスクと考えられる国・事業分野におけるSPCの利用

高リスクと考えられる国・事業分野において当該国の政府関連事業実績の多い企業の取得(株式の取得等)

受注金額や契約形式等から勘案して贈賄リスクが高いと考えられる公共調達への参加

外国公務員等に対する直接、間接の支払を伴う社交行為

企業が自主的にリスクを分類することやハイリスク項目等を設定することは困難を伴うケースもあるところ、本指針による分析は非常に参考になると考えられる。

さらに、③贈賄リスクを踏まえた子会社における対応の必要性の項目では、親会社が、企業集団に属する子会社において、リスクの程度を踏まえた防止体制が適切に構築され、また、運用されることを確保することの必要性が述べられている(本指針9頁参照)。構築と運用を確保する手段としては、親会社が株主権に基づいて子会社役員を選解任する方法や親子会社間で契約を締結する方法などが紹介されている。

その他、防止体制が有効に機能しているか否かの判断は、運用状況やその評価が重要であり、企業は、自らが構築し、運用している防止体制の水準が、現状において十分なものとなっているか否かについて、国内外の同業他社の水準や海外当局発行のガイドライン等をも参考にしつつ、常に検討し改善するよう不断の努力が求められる旨が述べられている。このように、企業は、外国公務員贈賄防止体制を構築した後も適宜見直しや改善の必要性がないか検証することが有用である。

次回のブログでは、本指針を踏まえた「企業が目標とすべき防止体制の在り方」について説明する。

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2017/03/03
グローバルコンプライアンスへの備え② 不正競争防止法での外国公務員等贈賄規制

1. はじめに

日本では、OECDの条約を実施するため、1998年に不正競争防止法が改正され、外国公務員等に対する贈賄の規制が導入された。当該規制に関しては近時、摘発事例が生じているなど日本で活動する企業のコンプライアンス対応において重要な事項となっている。そこで、本稿では、不正競争防止法での外国公務員等贈賄規制(以下「本規制」ともいう。)について概説する。

2. 外国公務員等贈賄規制の概要

(1) 具体的な要件

不正競争防止法は、「外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、その外国公務員等に、その職務に関する行為をさせ若しくはさせないこと、又はその地位を利用して他の外国公務員等にその職務に関する行為をさせ若しくはさせないようにあっせんをさせることを目的として、金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束を行うこと」を禁止している(同法18条1項)。

本規制の名宛人は「何人も」であり、(国籍を問わず、)規制対象行為(の全部又は一部)を日本国内で行った場合や日本人が国外で規制対象行為を行った場合が含まれる。また、「国際的な商取引」とは、貿易や対外投資など国境を越えた経済活動に係る行為を意味すると一般的に解されている。

本規制には「営業上の不正の利益を得るため」との目的要件が存在する。「不正の利益」には、外国公務員等に対する利益の供与等を通じて、自己に有利な形で当該外国公務員等の裁量を行使させることによって獲得する利益や外国公務員等に対する利益の供与等を通じて、違法な行為をさせることによって獲得する利益が含まれると解されている。いわゆるfacilitation paymentが許容されるについては、この目的要件との関係で問題になるところ、経済産業省策定の「外国公務員贈賄防止方針」(平成27年7月30日改訂)では、具体例を紹介しながら目的要件の考え方を説明しており、実務上参考になる。

「職務に関する行為」とは、外国公務員等の職務権限の範囲内にある行為のほか職務と密接に関連する行為も含むと解されている。また、「金銭その他の利益」には、財産上の利益にとどまらず、およそ人の需要・欲望を満足させるに足りるものも含むと解されている。

(2) 外国公務員等の概要

不正競争防止法18条2項は、供与先である「外国公務員等」の範囲を定めており、具体的には、①外国の政府又は地方公共団体の公務に従事する者、②外国の政府関係機関の事務に従事する者、③外国の公的な企業の事務に従事する者、④公的国際機関の公務に従事する者及び⑤外国政府等から権限の委任を受けている者が含まれる。

この点、上記②は、日本の特殊法人に相当するものであると解されている。上記③は、外国の政府又は地方公共団体が、議決権のある株式の過半数を所有する者、出資金額総額の過半数超の出資をしている者、役員の過半数の任命・指名をしている者などが該当する。上記④には、国際連合、WTOなどの団体の公務に従事する者が含まれる。上記⑤には、外国政府等、国際機関が自らの権限として行うこととされている事務(例えば、検査や試験等の事務)について、権限の委任を受けて行う者が含まれると解される。

(3) 刑事罰

不正競争防止法18条1項の規定に違反した者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又は併科の刑事罰の対象となる(同法21条2項7号)。また、法人の代表者や使用人等が当該法人の業務に関し違反行為をした場合には、両罰規定として法人に対して3億円以下の罰金刑が科される可能性がある(同法22条)。

3. 過去のエンフォースメント事例

本規制導入以降、刑事事件化された件数はそれほど多くなく、日本政府がOECD贈賄作業部会よりエンフォースメントに向けた提言を受けたこともあったが、近時は摘発事例が増加傾向にあり、企業における本規制への対応の重要性が強まっている。摘発事例の概要は以下のとおりである。

 

事案の概要

刑事罰

1

日本法人のフィリピン子会社に出向していた社員2名が、請負契約を早期に締結するため、来日した同国の捜査当局幹部2名に対して、日本国内で約80万円のゴルフクラブセット等を供与した事案。

社員がそれぞれ50万円、20万円の罰金に処された。法人への罰金はなし。

2

日本法人の社員4名が、ベトナム・ホーチミン市における幹線道路建設事業に関するコンサルタント業務を受注した謝礼等の趣旨で、同市幹部に対して、約60万米ドルと約20万米ドルの利益を供与した事案。

社員がそれぞれ懲役2年6月、懲役2年、懲役1年6月、懲役1年8月(いずれも執行猶予3年)に処された。法人への罰金7000万円も課された。

3

日本法人の元専務が、中国の現地工場の違法操業を見逃してもらう等のため、地方政府の幹部に対して、現金・女性用バック(合計約60万円)を供与した事案。

元専務が50万円の罰金に処された。法人への罰金はなし。

4

日本法人の元役員3名が、インドネシア、ベトナム及びウズベキスタンでのODA事業に関連し、鉄道公社関係者等に対して、それぞれ約7000万円(日本円)、約2000万円(日本円とインドネシアルピア)、約5500万円(米ドル)を供与した事案。

元役員がそれぞれ、懲役2年(執行猶予3年)、懲役3年(同4年)、懲役2年6か月(同3年)に処された。法人への罰金9,000万円も課された。

 

次回のブログでは、「外国公務員贈賄防止方針」に基づく企業における外国公務員贈賄防止体制について説明する。

 

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2017/01/30
グローバルコンプライアンスへの備え① 総論

1. はじめに

近時、企業活動が国内のみならず、国外にも拡大している。

企業が国外で活動する際には、海外リスク、カントリーリスク、地域リスクを意識する必要がある。一般的には、経済リスク(金融政策(インフレ、高金利等)、為替・外貨政策、税制、支払能力に関するリスク)、政治リスク(戦争、革命・クーデター、政権不安定、政策継続性、テロリスク、右傾化、移民問題)、社会リスク(民族・宗教問題、貧富格差問題、騒乱・暴動)、人的物的リスク(労働災害(児童就労等を含む。)、人件費高騰、自然災害、感染症流行、人口問題、環境問題、水資源問題)などの各種リスクが想定されるところ、これらのリスクに加えて、近時は特に、贈収賄、国際カルテル、パーソナルデータ保護、アンチ・マネーローンダリング、技術移転、国際税務等などのグローバルコンプライアンスリスク・規制対応リスクが増大している。

グローバルコンプライアンスリスクの中でも特に重要なものとして外国公務員に対する贈収賄規制対応がある。これは、業種に限らず、国外で活動する企業全般に要請されるものである。本ブログでは、外国公務員贈収賄規制を中心にグローバルコンプライアンスへの備えについて連載する。

2. 外国公務員贈収賄規制の概要と現在の傾向

近時、グローバル環境において、外国公務員贈収賄規制の強化や法執行の厳格化の傾向がみられる。日本企業が外国公務員贈収賄規制に抵触した場合には、企業のみならず役職員個人が規制当局に摘発・処罰されるリスク、民事上の責任追及をされるリスクなどが高まっているといえよう。

外国公務員贈収賄規制の沿革としては、米国の『海外腐敗行為防止法』(The Foreign Corrupt Practices Act of 1977。以下「FCPA」という。)が挙げられる。FCPAは、1977年に成立された法律であるが、1972年に生じたウォーターゲート事件を契機として、当時、多数の米国企業において外国公務員に対する贈賄行為が発覚したことや不正会計が発覚したことを受けて制定されたものである。内容は主に、外国公務員に対する賄賂行為の規制と公正な取引記録作成保存義務や会計、内部統制に関する規制である。本ブログでは、前者の規制について取り上げる。

米国では、同法の制定後、手続の円滑化のための支払(facilitation payment)に関する規定の整備などのFCPAの改正が行われた。また、米国政府は、米国企業による国際的な競争条件の公平性を確保するため、国際機関に対して外国公務員の贈収賄規制に関する国際的な取り決めを行うように働きかけを行った。

これを受けて、経済協力開発機構(OECD)は、1997年に、「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」を制定した。日本は、同条約に加盟するため、1998年に不正競争防止法を改正し、外国公務員に対する贈賄の規制を新設した。不正競争防止法はその後も複数回改正が行われ、外国公務員の贈賄規制が強化された。

FCPAは、米国企業、米国上場会社(外国企業を含む。)に加えて、行為の全部又は一部を米国国内で行った者についても外国公務員への贈賄を禁止しているが、2000年代に入り、米国企業のみならず、外国企業(その役職員や代理人等も含む。)に対してもエンフォースメントが強化されてきた。詳細は、今後のブログで紹介するが、2010年代には、日本企業に対して多額の罰金・制裁金等が課される事例も出てきた。

さらに、英国は、2010年に、英国における贈収賄行為を規制する『贈収賄防止法』(Bribery Act。以下「UK Bribery Act」という。)を制定した。UK Bribery Actでは、国内公務員(英国公務員)、外国公務員に対する贈賄の他、国内外民間人に対する贈賄(商業賄賂)も規制対象となっており、贈収賄に関して広範な規制が課されている。その他、世界各国ごとに独自の外国公務員贈収賄規制が設けており、法執行も強化される傾向にあるといえる。

3. 贈収賄増防止のための社内体制の整備

贈収賄自体は個々の行為であるものの、企業における対策としては、贈収賄増防止のための社内体制を整備することが重要である。

2012年には、米国司法省(以下「DOJ」という。)と米国証券取引委員会(以下「SEC」という。)が、FCPAガイドラインを公表した。同ガイドラインでは、法令解釈を示すほか、FCPA違反を行わないためにとるべき手段、FCPA違反への制裁を減じるために企業が採り得る手段(効果的なコンプライアンス・プログラムの継続、違反の自己申告、法執行当局による調査への協力等)などが記載されており、企業の社内体制整備の重要性がフォーカスされている。日本においても、経済産業省が「外国公務員贈賄防止指針」(平成27年改訂版が最新版)を策定しておるが、同指針では、会社法、不正競争防止法及び海外法令上、海外事業を行う企業は、外国公務員贈賄防止体制の構築及び運用が必要であることが明記されるとともに、体制整備のためのプラクティスが紹介されている。また、日本弁護士連合会が2016年7月に制定した「海外贈賄防止ガイダンス(手引)」では、内部統制システム整備義務を果たす上で必要な贈賄防止体制の要素、処罰の減免にも一助となり得る内部統制システムの要素、企業及び弁護士における海外贈賄防止のための実務対応の在り方を盛り込まれている(なお、同手引は、2017年1月19日に改訂されている。)。このように、企業における贈収賄増防止のための社内体制の整備の重要性が増している状況にある。

本ブログでは、今後、重要な外国公務員贈収賄規制の概要を解説するとともに、企業における贈賄防止体制の整備のポイントについて説明していく。

(注)本ブログに含まれている情報は一般的な内容であり、法的アドバイスや意見を提供するものではありません。また、外国法の取扱いに関しては外国法専門家にご確認下さい。

 

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2016/12/05
改正犯収法への備え⑥「特定事業者の体制整備」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、特定事業者の体制整備に関連した改正も行われた。本稿では特定事業者による取引時確認等の措置などの改正点を概説する。

1. 特定事業者による取引時確認等の措置

2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、「顧客の取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置」と「使用人に対する教育訓練の実施その他の必要な体制の整備」が特定事業者の努力義務として規定されていた(旧法10条)。

これに対して、FATFからの指摘を踏まえて継続的な顧客管理措置を法定するため、改正犯収法では、特定事業者が講じる努力義務として、上記の内容として以下の事項が追加された(同法11条各号、同法施行規則32条1項各号)。

◎ 取引時確認等の措置の実施に関する規程の作成(同法11条2号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査その他の業務を統括管理する者の選任(同条3号)
◎ 自らが行う取引(新たな技術を活用して行う取引その他新たな態様による取引を含む。)について調査し、及び分析し、並びに当該取引による犯罪による収益の移転の危険性の程度その他の当該調査及び分析の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録(以下「特定事業者作成書面等」という。)を作成し、必要に応じて、見直しを行い、必要な変更を加えること(同法11条4号、同法施行規則32条1項1号)
◎ 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、取引時確認等の措置を行うに際して必要な情報を収集するとともに、当該情報を整理し、及び分析すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項2号)
◎ 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、確認記録及び取引記録等を継続的に精査すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項3号)
◎ 顧客等との取引が同法施行規則27条3号に規定する取引(いわゆるハイリスク取引)に該当する場合には、当該取引を行うに際して、当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて同法11条3号 の規定により選任した者の承認を受けさせること(同法11条4号、同法施行規則32条1項4号)
◎ 同法施行規則32条1項4号に規定する取引について、同条項2号に規定するところにより情報の収集、整理及び分析を行ったときは、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項5号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な能力を有する者を特定業務に従事する職員として採用するために必要な措置を講ずること(同法11条4号、同法施行規則32条1項6号)
◎ 取引時確認等の措置の的確な実施のために必要な監査を実施すること(同法11条4号、同法施行規則32条1項7号)

上記措置の詳細については、平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)での見解が参考になる。なお、特定事業者作成書面等の作成((同法11条4号、同法施行規則32条1項1号)に当たり参考とする犯罪収益移転危険度調査書(同法8条2項)であるが、平成28年11月24日に「平成28年犯罪収益移転危険度調査書」(下記URL参照)が公表されているため、各社においては同調査書の内容にも注意が必要である。

https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/nenzihokoku/risk/risk281124.pdf

上記事項については金融庁の各種監督指針の「取引時確認等の措置を的確に行うための法務問題に関する一元的な管理態勢が整備され、機能しているか。」との項目でも言及されているものがある。これらは努力義務ではあるが、金融機関は当該措置を講じるために努める必要があり、監督指針では、その点を含めた態勢が整備されているかという着眼点を定めているとされている(平成28年7月27日付改正監督指針に係る金融庁パブコメ回答2頁9番、10番参照)。そこで、特に金融機関については、上記措置に係る対応を行うことが望まれる。

2. 外国営業所、外国子会社の体制整備の努力義務

特定事業者のうち、金融機関(犯収法2条2項1号から38号までに定めるものであり、国内に本店又は主たる営業所若しくは事務所を有するものに限る。)については、外国において特定業務に相当する業務を営む外国子会社又は外国において営業所(以下「外国所在営業所」という。)を有する場合であって、犯収法、同法施行令及びこの命令に相当する当該外国の法令に規定する取引時確認等の措置に相当する措置が取引時確認等の措置より緩やかなときには、以下に掲げる措置を講じる努力義務を負う(同法11条4号、同法施行規則32条2項各号)。

◎当該外国会社及び当該外国所在営業所における犯罪による収益の移転防止に必要な注意を払うとともに、当該外国の法令に違反しない限りにおいて、当該外国会社及び当該外国所在営業所による取引時確認等の措置に準じた措置の実施を確保すること
◎当該外国において、取引時確認等の措置に準じた措置を講ずることが当該外国の法令により禁止されているため当該措置を講ずることができないときにあっては、その旨を行政庁に通知すること

上記の趣旨は、特定事業者に対し、支配下にある外国所在の子会社を含め、グローバルに整合性のとれた犯罪収益の移転防止に係る体制整備を求める点にあり(本パブコメ回答199番参照)、「取引時確認等の措置」の全部又は一部が義務付けられていない場合は緩やかであると評価されると解されている(同回答198番)。

3. 銀行等の特定事業者が外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う場合に講じる措置

銀行等の特定事業者が外国銀行などの外国所在為替取引業者との間でコルレス取引を行う場合には、①当該業者が、取引時確認等相当措置を的確に行うために必要な基準として主務省令で定める基準に適合する基準を整備していること及び②当該業者が、業として為替取引を行う者であって監督を受けている状態にないものとの間で為替取引を継続的に又は反復して行うことを内容とする契約を締結していないこの確認を行わなければならない(犯収法9条。当該主務省令は同法施行規則29条参照)。

同条はコルレス先がいわゆるシェルバンクではない点を確認するためのものである。

また、特定事業者による確認の方法は、当該業者から申告を受ける方法又は当該業者若しくは外国監督当局相当の外国機関がインターネットで公表している情報を閲覧して確認する方法である(同施行規則28条)。

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2016/11/04
改正犯収法への備え⑤「疑わしい取引の届出制度」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、疑わしい取引の届出制度に関連した改正も行われた。本稿では疑わしい取引の届出制度における改正点を中心に同制度を概説する。

1. 疑わしい取引の該当性の判断

犯収法では、士業者を除く特定事業者は、特定業務に係る取引において収受した財産が犯罪による収益である「疑い」がある又は顧客等が特定業務に関し組織的犯罪処罰法10第1条の罪若しくは麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている「疑い」があると認められる場合には、疑わしい取引の届出を行政庁に提出することが要請される(犯収法8条)。

この点、2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、そもそも、「疑いがあると認められる場合」には、速やかに行政庁に届出を行う旨が定められているに過ぎず、上記の「疑い」の判断をすることが条文上明確化されていなかった。また、「疑いがあると認められる場合」の判定についても、「取引時確認の結果その他の事情を勘案して、」との文言があったものの、具体的な判定方法については明文の定めがなかった。

これに対して、改正犯収法では、特定事業者にて上記の「疑い」があるかどうかを「判断」することが同法8条1項の文言上明確化されるとともに、疑いがあるかどうかの判断については、取引時確認の結果、取引の態様その他の事情及び国家公安委員会が作成・公表する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、犯収法施行規則で定める所定の方法により判断を行う点が明記された(同法8条2項)。

2. 疑わしい取引の該当性の判断方法

改正された犯収法施行規則26条、27条は、特定事業者による疑わしい取引の該当性の判断方法として取引の類型毎に判断項目や方法を定める。

①新規顧客との特定取引(いわゆる一見取引)(下記②に該当するものを除く。)
上記①の取引については、下記の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(犯収法施行規則27条1号、26条)。

(i) 当該取引の態様と、他の顧客等との間で通常行う特定業務に係る取引の態様との比較
(ii) 当該取引の態様と、過去の当該顧客等との他の特定業務に係る取引との比較
(iii) 当該取引の態様と取引時確認の結果に関して有する情報との整合性

この点、上記(i)の項目は、その業界における一般的な商慣習に照らして判断する(平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)156番参照)。

②既存顧客との特定取引(下記③に該当するものを除く。)
上記②の取引については、当該顧客等に係る確認記録や取引記録等の精査などをした上で(犯収法施行規則32条1項2号、3号参照)、上記①の(i)から(iii)までの項目に従って当該取引に疑わしい点があるかどうかを確認する方法により判断を行う(同規則27条2号)。当該精査については、リスクに応じた事業者の判断により、取引ごとの深度が異なることも許容されている(リスクベース・アプローチ。本パブコメ回答163番参照)。

③特定業務に係るハイリスク取引(マネー・ローンダリングに利用されるおそれの高い取引)
上記③の取引については、上記①又は②に係る確認方法に加えて、顧客等に対して質問を行ったり、取引時確認の際に顧客から申告を受けた職業等の真偽を確認するためにインターネット等を活用して追加情報を収集したりするなど(本パブコメ回答170番参照)、必要な調査を行うこととするとともに、当該措置を講じた上で、当該取引に疑わしい点があるかどうかを統括管理者又はこれに相当する者に確認させる方法により判断を行う(犯収法施行規則27条3号)。

上記③の取引としては、ハイリスク取引(犯収法4条2項前段)や、顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引(犯収法施行規則5条)、高リスク国に居住・所在する顧客との取引等、同法3条3項が規定する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してマネー・ローンダリングに悪用されるリスクが高いと認められる取引が挙げられる。

なお、特定取引が、犯収法施行規則27条3号に規定する取引に該当する場合には、特定事業者は、努力義務として、犯収法施行規則32条1項4号及び5号に掲げる継続的顧客管理措置(当該取引の任に当たっている職員に当該取引を行うことについて統括管理者(犯収法11条3号)の承認を受けさせること及び情報の収集、整理及び分析を行ったときは、その結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、確認記録又は取引記録等と共に保存すること)を講じることが要請される。

3. 疑わしい取引の届出書

疑わしい取引の届出書の様式については、犯収法改正に伴う所定の様式の改正はあるものの、同改定に伴なう実質的な内容の変更はない(犯収法8条1項、同法施行令16条、同法施行規則25条、別紙様式)。疑わしい取引の判断項目・方法の届出様式への反映は、従前と同様に届出理由欄に記載すれば足りると解されている(本パブコメ回答173番参照)。

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2016/10/05
改正犯収法への備え④「特定取引に関するその他の改正点」

2016年10月1日に施行された改正犯収法では、既に改正犯収法への備え②、③で解説している「外国PEPsとの取引の新設」及び「法人の実質的支配者の概念の変更」の他、特定取引に関連したいくつかの改正が行われた。本稿では改正法下における、特定取引の追加、顔写真がない本人確認書類の取扱い・法人の取引担当者の確認の厳格化、簡素な顧客管理を行うことが許容される取引に関して概説する。

1. 特定取引(顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引と敷居値以下に分割したことが明らかな取引)の追加

2016年10月1日以前の犯収法(以下「旧法」という。)では、疑わしい取引の届出に関する内報の禁止の規制の存在や解釈上の指針があることから、マネー・ローンダリングの疑いのある取引や経済的又は法的な目的のない複雑な取引、異常な大口取引又は異常な形態の取引に対する措置が法令上明文化されていなかった。

この点、FATFの指摘などを踏まえ、改正犯収益法は、「顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引」と「敷居値以下に分割したことが明らかな取引」を特定取引に明文上追加した。

まず、「顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引」として、「疑わしい取引」(取引において収受する財産が犯罪による収益である疑いがある場合、取引に関し組織的犯罪処罰法10条の罪又は麻薬特例法6条の罪に当たる行為を行っている疑いがあると認められる取引)と「同種の取引の態様と著しく異なる態様で行われる取引」の2種類の取引が追加された(改正犯収法施行令7条1項柱書、同法施行規則5条各号)。

次に、「敷居値以下に分割したことが明らかな取引」として、特定事業者が同一の顧客等との間で2以上の以下の①から④に掲げる取引(なお、括弧書は敷居値)を同時に又は連続して行う場合において、当該2以上の取引が1回当たりの取引の金額減少させるために当該取引を分割したものの全部又は一部であることが一見して明らかであるものがある(改正犯収法施行令7条3項)。この場合、特定事業者は、当該2つの取引を1の取引とみなして特定取引に該当するかどうかを判断する。
①現金等受払取引等(200万円超)
②現金等払戻し(10万円超)
③本邦通貨と外国通貨の両替又は旅行小切手の販売若しくは買取り(200万円超)
④貴金属等の売買契約の締結(200万円超)

2. 顔写真がない本人確認書類の取扱いの厳格化

旧法では、自然人の顧客や法人取引担当者の取引時確認において、顔写真がない健康保険証、年金手帳などの公的証明書が本人確認書類として認められており、例えば、対面取引においては健康保険証などの一部の顔写真のない証明書は当該書類の提示のみで本人確認書類として足りていた。

この点、FATFの指摘などでは写真のない証明書に関しては確認能力が劣るとされているため、改正犯収法では、健康保険証、年金手帳などの顔写真のない一部の証明書の提示を受けた場合には、特定事業者は、これらの書類の確認に加えて、取引関係文書の転送不要郵便等による送付、他の本人確認書類又は公共料金の領収証などの補完書類の提示などの二次的な確認措置を講じることが必要となった(改正犯収法施行規則6条、7条)。

3. 法人の取引担当者の確認の厳格化

特定事業者は、法人顧客との特定取引に関して法人の取引時確認に加えて、法人顧客の取引の任に当たっている自然人(いわゆる取引担当者)の確認が要請されている(犯収法4条4項)。取引担当者の確認については、同人の本人特定事項の確認に加えて当該法人の代表権限の確認も必要である。

旧法では、代表権限の確認方法として、社員証等による確認や当該取引担当者が法人の役員として登記されていることの確認による方法が認められていた。

この点、FATFからの指摘により上記確認方法は当該法人の代理権限の付与の確認方法としては不適切であるとされたため、改正犯収法では、社員証等による確認が廃止され、また、登記による確認については取引担当者が法人を代表する権限を有する役員として登記されていることの確認方法が要請されることになった。
後者の改正との関連では、例えば、代表権がない取締役として登記がなされている者(いわゆる平取締役)が取引担当者である場合には、登記事項証明書による確認を行うことができなくなった(改正犯収法施行規則12条4項2号ロ)。

改正犯収法下では、法人の代表権の登記がない取引担当者については、委任状などの取引の任に当たっていることを証する書面(同号イ)、法人の本店や営業所等に電話をかける方法(同号ハ)、法人と取引担当者等との関係を認識しているなどの方法(同号ニ)により確認することになり、特に同号イ又はハの方法で確認を行うケースが従前よりも多くなると考えられる。

なお、既に旧法下で代理権限を確認している法人顧客との特定取引においては、犯収法4条3項に基づき取引時確認済の顧客の確認を行えば足り、当該取引がハイリスク取引や顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引などに該当しない限り、改正犯収法下で、別途、同法に対応した代表権限の確認を行う必要はないとされている。

4. 簡素な顧客管理を行うことが許容される取引

改正犯収法では、FATFの指摘を踏まえたリスク評価により、旧法において「犯罪による集積の移転に利用されるおそれがない取引」に分類されていた取引について「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」に名称を変更した(改正犯収法施行規則4条)。また、電気・ガス・水道等の公共料金や国内の小・中・高・大学・高等専門学校の入学金・授業料などの現金納付が新たに「簡素な顧客管理を行うことが許容される取引」に追加された(同条1項7号)。

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2016/09/12
改正犯収法への備え③「法人の実質的支配者の確認」

改正犯収法では、法人の実質的支配者の概念が変更されるとともに、確認事項や確認方法が改正された。本稿では改正法下における法人の実質的支配者の確認に係る留意点を概説する。

1. 犯収法改正の背景と法人の実質的支配者の概念

2013年4月に施行された現行の犯収法において、特定事業者には法人顧客の実質的支配者の本人特定事項の確認などが新たに義務付けられた。具体的には、現行の犯収法においては、法人顧客が株式会社などの資本多数決法人である場合には原則として「25%超の議決権を直接保有する者」が実質的支配者に該当し、法人顧客が一般社団法人や公益法人などの資本多数決原理が働かない法人である場合には「代表権限を有する者」が実質的支配者に該当する。

この点、FATFは、法人の真の受益者(Ultimate Beneficial Owner)、すなわち自然人に遡って支配者を確認することを要請してきた。その上で、現行犯収法では資本多数決法人において自然人ではなく法人が実質的支配者に該当するケースもあり、また、法人の議決権の間接保有者は実質的支配者に該当しないことになり、さらに資本多数決原理が働かない法人において実質的支配者となる「代表権限を有する者」はFATFが想定する「最終的に法人を所有・支配する者」とは異なるとのFATFからの指摘を受けていた。 そこで、改正犯収法は、法人の実質的支配者の概念を変更し、原則として自然人まで遡るようになった。

改正犯収法下における法人の実質的支配者の判定は下図のとおりである(同法4条1項4号、改正犯収法施行規則11条、JAFICホームページhttps://www.npa.go.jp/sosikihanzai/jafic/hourei/data/filowcls20161001.pdf 26頁参照)

 出典: JAFICホームページ『犯罪集敵移転防止法の概要』26ページ 9. 実質的支配者の確認方法 より

実質的支配者の該当性は原則として取引の時点で判断するが、合理的な範囲で近接した時点(例えば、直近の株主総会開催時)での状況により判断することもできると解されている。

実質的支配者に該当する自然人が複数いる場合には、その全てが実質的支配者に該当する。また、議決権の25%超を保有する自然人(法人の収益総額の25%超の配当を受ける自然人)であっても、他に議決権の50%超を保有する自然人(法人の収益総額の50%超の配当を受ける自然人)が存在する場合は、議決権の50%超を保有する自然人(法人の収益総額の50%超の配当を受ける自然人)が実質的支配者に該当し、25%超の議決権を保有している(法人の収益総額の25%超の配当を受けている)自然人は実質的支配者に該当しないことになる。

なお、国、地方公共団体、上場会社等、企業年金基金など(以下「国等」という。)やその子会社は、法人の実質的支配者の判定に当たっては、自然人とみなされる(改正犯収法施行規則11条4項)。そこで、これらの場合において法人の実質的支配者の本人特定事項の確認においては、生年月日の申告を受けることは不要となる(同法4条1項1号、平成27年9月18日付改正犯収法政省令に関するパブリックコメント回答(以下「本パブコメ回答」という。)129番参照)。「上場会社等」には上場投資法人(上場REITなど)は含まれない(改正犯収法施行規則11条4項5号、金融商品取引法施行令27条の2各号、金融商品取引法2条1項11号参照)。

2. 実質的支配者の確認事項及び確認方法など

改正犯収法においては、法人の実質的支配者の確認事項も改正された。

現行の犯収法では、資本多数決法人など法人の実質的支配者が存在しないケースも存在するため、確認事項の中に法人の実質的支配者の「有無」が含まれている。一方で改正犯収法では、原則として自然人に遡って法人の実質的支配者が判定され、少なくとも、法人の実質的支配者が存在しない事態は想定されていない。そこで、法人の実質的支配者の「有無」は確認事項ではなくなった。

なお、特定事業者が作成する確認記録(改正犯収法6条1項)には、顧客等(国等を除く。)が法人であるときは、実質的支配者の本人特定事項及び当該実質的支配者と当該顧客との関係並びにその確認を行った方法を記載する必要がある(改正犯収法施行規則20条1項18号)

また、改正犯収法においては、自然人に遡って支配者を確認することとなったため、法人の実質的支配者の確認方法も改正された。

まず、通常の特定取引に関しては、当該法人顧客の代表者等から、実質的支配者の本人特定事項について申告を受ける方法により確認を行うこととなった(改正犯収法施行規則11条1項)。この点、特定事業者の知識、経験及びその保有するデータベースに照らして合理的でないと認められる者を実質的支配者として申告した場合には、特定事業者は正確な申告を促す必要があるとの見解が示されており(本パブコメ回答112番等)、特定事業者にて顧客情報に関するデータベースを充実させることは有用な対応になると考えられる。

一方で、ハイリスク取引に関しては、法人顧客の株主名簿(資本多数決の原則を採る法人の場合)、登記事項証明書(資本多数決の原則を採る法人以外の法人の場合)等の書類を確認し、かつ、実質的支配者の本人特定事項について当該顧客から申告を受ける方法による確認を行うことになる(改正犯収法4条2項、同法施行規則14条3項)。

3. 改正犯収法における経過措置の留意点

改正犯収法の施行により、法人の実質的支配者の概念が変更され、原則として自然人まで遡って確認することが要請されることになった。そこで、特定事業者は、施行日(平成28年10月1日)前に既に取引時確認を行っている顧客であっても、施行日以後に行う特定取引の際に改めて、改正後の法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項を確認することが原則として必要である(その他、確認済の確認の特例を活用する場合には、当該措置を講じる必要がある(改正犯収法4条3項)。)。

ただし、施行日以後に行う特定取引が、施行日前に締結された継続的な契約に基づく取引に該当する場合や、施行日前に特定事業者が改正後の法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項の確認を行っている場合には、特定事業者は、施行日以後の特定取引の際に、改めて改正犯収法下における新たな法人の実質的支配者の概念に対応した本人特定事項を確認する必要はない(改正犯収法附則4条参照)。

その他、経過措置の関係では、改正犯収法附則4条が定める取引であっても、顧客又は代表者等になりすましの疑いがあるもの、本人特定事項の偽りの疑いがあるものなどについては、特定事業者は改正犯収法4条2項に基づく厳格な取引時確認を行う義務が生じるなどの例外があるため、注意を要する。

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